一般講演3-1

日本人ファンコニ患者における変異型アルデヒド分解酵素の骨髄不全に及ぼす影響1-3)

平 明日香 先生

京都大学放射線生物研究センター 晩発効果研究部門 DNA損傷シグナル研究部門

 遺伝性疾患のファンコニ貧血(FA)では、染色体の不安定性を背景に、進行性の骨髄不全(貧血)、固形腫瘍の合併、先天奇形や不妊などの多様な臨床症状がみられる。しかしこれまで、それらの臨床症状をひき起こしている内因性DNA損傷物質が何であるのか、この病気の本態が明らかになっていなかった。
 ところが最近、1つの示唆的な研究知見が提示された。2011年に英国ケンブリッジ大学のK.J.Patelらは、ノックアウトマウスを用いて、FA遺伝子FANCD2と、アルデヒド代謝に重要なアルデヒド脱水素酵素(ALDH)2の両遺伝子に強い遺伝的相互作用を認めることを報告した2)
 ALDH2に関しては、日本人をはじめとした東アジア人ではほぼ5割の人間がALDH2の変異型アレルをもち、その活性は正常型(GG)に比べ非常に低く、ヘテロ変異(GA)でも1/10程度である3)。ホモ(AA)もしくはヘテロ変異型のヒトが飲酒すると、顔面紅潮など、分解されずに蓄積したアセトアルデヒドによる中毒症状が出現しやすい。
 アセトアルデヒドは、DNA-DNA架橋やDNA-蛋白架橋、DNAモノアダクトなど、さまざまなDNA損傷をひき起こす可能性があることが知られている2)
 こうした背景のもと、京都大学、東海大学、九州大学および名古屋大学の共同研究グループは、日本のFA患者64例を対象にALDH2の遺伝子型を調査した。ここで得られたデータと、その意義について、グループを代表して平先生が報告した。
 対象64例のADLH2遺伝子型は、AAが3例、GAが25例、GGが36例であった。
 そして注目すべきことに、遺伝子型別に骨髄不全(貧血)の発症についてみると、ホモ(AA)もしくはヘテロ変異型(GA)をもつ患者では正常型(GG)に比して骨髄不全発症が早く、とりわけホモ変異型を有する患者では出生直後に発症した(1)。また、19例のFANCA患者(両アレルに明らかな変異)でも同様であり、FA遺伝子変異とは独立のADLH2遺伝子変異によるものと考えられる。さらに、特にホモ変異型では骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発症も早かった。
 これらを含め、ALDH2の遺伝子型と種々の臨床症状の重症度に強い相関が認められた。
なお、出生時の体重と身体奇形数には遺伝子型別に差がなかったが、内容的には心血管系や骨格、橈骨、親指、腎などの奇形がホモ、ヘテロの順で多いという相関傾向がみられた。  現在、対象数を増やし、ホモ変異5例を含む76例で解析中であるが、上記と矛盾しない結果が得られている。
 以上より、ALDH2遺伝子変異、ALDH2のアセトアルデヒド分解活性レベルがFA病態に大きな影響を及ぼしていることが示された。本研究の成果は今後、FA治療法の開発につながることが期待される。また、FAのみならず骨髄幹細胞が減少するほかの疾患、さらには血液疾患全般においても、アルデヒドが病態を修飾する要素として、重要な役割を果たしている可能性が示唆される。

【参考文献】

  1. Hira A, et al. Variant ALDH2 is associated with accelerated progression of bone marrow failure in Japanese Fanconi anemia patients. Blood 2013; 122: 3206-9.
  2. Langevin F, et al. Fancd2 counteracts the toxic effects of naturally produced aldehydes in mice. Nature 2011; 475: 53-8.
  3. Li H, et al. Refined geographic distribution of the oriental ALDH2*504Lys (nee 487Lys) variant. Ann Hum Genet 2009; 73: 335-45.

図 日本人FA患者64例においてALDH2遺伝子変異は
骨髄不全(BMF)の発症・進行を促す