骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndromes:MDS)は、形態学的な異常(異形成)を伴う造血細胞の異常な増殖とアポトーシスによって特徴づけられる、クローン性の造血器腫瘍である1)2)。骨髄では造血細胞の増殖が認められ、正ないし過形成を呈し、さまざまな形態異常(異形成)を示す。一方、末梢血では異常なアポトーシスの亢進による無効造血を反映して1~3系統の血球減少症を生じる。さらに、急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia:AML) への進展の可能性が高いことも特徴である。MDSは骨髄不全を主体とし、再生不良性貧血との鑑別が困難なものから、芽球の増加を伴い白血病に移行する症例まで、多様な病態を示す疾患群の総称である3)。
日本におけるMDSの年齢階級別罹患率を図1に示す4)。MDSの罹患率は年齢とともに増加する傾向にあり、診断時の年齢中央値は76歳であることが示された。特に70歳以降で罹患率が増加しており、年齢階級別に人口10万人あたりの罹患率を比較すると、65~69歳では男性3.1人、女性1.1人であったことに対して、85歳以上では男性17.7人、女性8.9人であった。
MDSはゲノム異常から生じると考えられ、約半数の患者は染色体異常を有している。しかし、病因や発症機構はほとんど明らかになっていない。一部、家族性・先天性の要因が明らかにされているが、大多数は孤発性で後天的要因によるものと考えられている5)。 発症要因の一部として、放射線治療や、アルキル化剤・トポイソメラーゼ阻害剤といった抗悪性腫瘍剤による治療が考えられており、これらは治療関連MDS(therapy-related-MDS:t-MDS)と呼ばれる。治療関連MDSはMDS全体の10〜20%を占めるが6)、残りは原因不明のde novo MDSである。 MDSの発症に関わる環境要因として、アルキル化剤やトポイソメラーゼ阻害剤などが報告されている6)。
近年の遺伝子解析により、MDSに関連する遺伝子異常やAMLへの進展などの分子病態が明らかになってきており、複数の遺伝子異常の蓄積によってクローン性が進展すると考えられる。すなわち、MDS関連遺伝子変異をもつ前MDS状態(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)を経て、形態学的異形成と血球減少を呈するMDSが発症する。さらに遺伝子変異が加わり増殖能を獲得すると白血病化すると考えられる7)。